AIスクールの初回で、AIの使い方を教えなかった
10月3日の土曜、21時。MOAIの第1回を終えました。
MOAIは、沖縄のAIスクールです。AIやITに詳しくない人でも、自分の業務から課題を見つけ、AIと一緒に解決するところまでを一通り経験してもらいます。そこで身につけてほしいのは、AIの操作より、ツールや職場が変わっても通用する「自分で課題を見つけて、解決までやり切る力」です。
講座は毎週土曜の全8回で、今回はその初回。会場は沖縄県本部町(もとぶちょう)と那覇の2か所に、オンラインをつないだハイブリッド形式です。私は本部町の会場で話し、那覇はもう一人の講師が担当しています。
なお、毎週土曜に全8回という形で開くのは、今回限りです。今後のMOAIは、本部町で2日間集中して学ぶ「MOAI CAMP」に全面的に移行することになりました。形式は変わりますが、作るものを自分の仕事や暮らしの困りごとから選ぶという考え方は、CAMPにもそのまま引き継いでいくつもりです。
沖縄のAIスクール MOAI CAMP|本部町で学ぶ2日間のAI集中講座沖縄・本部町で、AIとWebサイトやアプリをつくる2日間。MOAI CAMPは通い・1泊付きから選べる短期集中講座。CAMP第1期限定79,800円(税込)、1泊付き99,800円(税込)。最少催行4名・定員8名。MOAI 生成AIスクール
タイトルには「AIの使い方を教えなかった」と書きましたが、AIに触れなかったわけではありません。教えなかったのは、ChatGPTやCodexといったツールの操作方法です。代わりに、AIとどう付き合い、自分の仕事のどこに使うかを考える2時間にしました。目指したのは、受講した翌週の月曜日に、自分の仕事が少しでも変わっていることです。
正直に書くと、資料は当日の夕方まで手直しを続けていました。話す内容のメモも、最終的には1万字超え。AIの講座ですが、このメモはAIに作らせず、自分で一から書いています。自分の経験や考えを、自分の言葉で伝えたかったからです。AIに任せれば整った文章にはなりますが、話の途中で言葉に詰まったとき、立ち戻れるのは自分で考えた筋道しかありません。もちろん、こういうメモもAIに書かせる人はいるでしょうし、それも一つのやり方だと思います。ここは私のこだわりもありました笑
当日は、話の順番や例え、問いかけを忘れないよう、このメモを手元に置いていました。メインで話したい内容のほかに、時間が余ったときの話や、受講者の反応次第で話してみたら面白そうなことも書き込んであります。とはいえ、2時間の講座に1万字のメモは、自分でも明らかにやりすぎでした。それでも書いたのは、初回で何を言うかが、残り7回の空気を決めると思っていたからです。
講座をゼロから作り直した
MOAIは当初、「AIを使ってWebアプリを作り、公開するところまで行く講座」として設計していました。教材案も、それに沿ってHTML・CSS、Git、デプロイという順に並んでいたのです。
その後、これを全面的に書き換えました。新しいゴールはこちらです。
自分の業務の課題に適切な技術を選び、分からないことはAI Agentに聞きながら、自分で改善・実現まで進められる人。
きっかけは、教材を作り進めるうちに、ひとつの疑問が頭から離れなくなったことでした。この講座を修了した人の、翌週の月曜日は何が変わっているのだろうか、と。
こう書くと、「受講者が最後にどうなっているかを考えるのは、講座設計として当たり前では?」と思われるかもしれません。まったくその通りです。それでも、「アプリを作って公開する」という分かりやすいゴールがあると、それを達成した時点で講座がうまくいったような気になってしまうんですよね。
8週間かけてアプリを1本作り、公開する。それ自体には達成感があります。ただ、その人が月曜の朝に向き合うのは、報告書や企画書の作成、問い合わせメールの振り分け、手作業の集計です。作ったアプリがそこに関係していなければ、仕事は何も変わりません。
講座の成果は、何を作ったかではなく、受講後の仕事がどう変わったかで測りたい。そう考えるようになりました。
申込みの状況を見ていても、来てくれる人の多くはエンジニアになりたいわけではありませんでした。普段の仕事の中に面倒な作業があって、それをAIでどうにかできないかと思っている人たちです。
その人たちに必要なのは、AIでアプリを開発するスキルよりも、自分の仕事のどこにAIを入れられるかを見極める目のほうだと考えました。
それに、今はAIに頼めばアプリの雛形くらいはすぐに出てきます。足りないのは作る力よりも、「この作業はAIに任せるべきか」「そもそもAIが要るのか」を選ぶ力のほうです。だから講座の軸を「作る」から「選ぶ」に移しました。
もっとも、選んで終わりではありません。課題を見つけ、手段を選び、AIと相談しながら改善まで進める。この一連の流れを、8週間かけて一通り経験してもらいます。
第1回は、AIの「使い方」を教える回にしなかった
第1回のタイトルは「AI Agentを仕事の相棒にする」です。
とはいえ、ChatGPT・Codexの使い方を教える回にはしませんでした。実際、「AIを触ったことがある人」と聞くと、受講者全員が手を挙げました。少なくとも、ChatGPTの画面を開いて質問するところから説明する必要はなさそうでした。
前半で話したのは、ここ数年の変化を踏まえた「AIの現状」と、生成AI(LLM)、Chat AIとAI Agent(以下、Agent)、コンテキストなど、最低限の言葉の整理だけです。
Chat AIとAgentの違いは、身近な業務を例に説明しました。Chat AIは聞かれたことに答えを返して終わりますが、Agentは自分で道具を使い、手順を組み、要所で人に確認しながら仕事を進めます。頼み方は同じでも、動き方が違うわけです。
後半は、受講者自身の業務を扱いました。普段の仕事を振り返り、AIに任せられるところとそうでないところを整理したうえで、8週間かけて改善したい業務を1つ選んでもらっています。選んだテーマは、その場でAgentにも相談してもらいました。
実は冒頭の自己紹介で、「今いちばん面倒だなと思っている作業」も1つずつ聞いています。後半で手が止まった人に、「さっき言っていた○○は?」と戻すための仕込みです。
選んだテーマは、第7回と第8回でそのまま題材になります。最終回では、各自が第1回で選んだ業務をどう改善したかを発表してもらう予定です。
当日出てきたテーマは、大きく3つに分かれました。
① 情報整理
散らばった情報を、毎日整理してほしい。複数の事業やタスクを同時に抱えていて、いま何がどうなっているかを把握するだけで手間がかかる、という悩みです。
② データの可視化
手元にあるデータを、見ただけで状況が分かる形にしたい。数字は既にあるのに、それが一目で読み取れる形になっていないそうです。
③ 発信・販促
発信や販促の内容を、AIと一緒に考えたい。時間を短くしたいだけでなく、中身も濃くしたいという声でした。
「やりたいことが多すぎて、何から手をつければいいか分からない」という声もありました。これも、立派なテーマではないでしょうか。何から手をつけるかを決めることは、第7回で扱う「業務を分解して、改善の方法を考える」作業の先取りでもあります。
うまくいかないのは「渡しているものが足りない」から
前半で特に時間をかけたのは、コンテキストの話です。
AIに頼んだのに、思ったような答えが返ってこなかった。そんな経験はないでしょうか?
そういうとき、つい「AIが賢くないから」と考えがちですが、見落とされやすい原因の一つに「渡しているものが足りない」ことがあります。
「今日の夕飯、何がいい?」とだけ聞かれるのと、「和食で、予算は千円以内で、30分で作れるもの」と聞かれるのとでは、答えやすさが大違いです。人に頼むときは誰でも自然にやっていることを、AIに対してはなぜか忘れてしまうんですよね。
意外と難しいのは、AIは情報が足りなくても困らないことです。足りない部分をそれらしい内容で補ってしまい、事実と違う答えを返すこともあるのです。こうした誤り(ハルシネーション)は情報を十分に渡しても起こり得ますが、渡す情報が足りないと、起きる余地も大きくなります。
だから相談のワークでは、Agentの返事をそのまま受け取らず、いくつかの観点で見直してもらいました。
たとえばAgentから聞き返された内容は、「自分が渡していなかったコンテキスト」に気づくヒントになります。
AI講座で、AIを使わない案を褒める
業務を整理するときの選択肢には、「AI以外の仕組みで自動化する」も入れておきました。「毎週月曜に先週の売上を集計してメールする」のように、毎回同じ手順でルールが決まっている作業は、AIより表計算やGASのほうが速くて確実です。あなたの仕事にも、そんな作業はありませんか?
後半のワークでは、Agentに何をどう聞けばいいか困った受講者が使えるよう、相談のテンプレートも用意しました。その最後には、AIを使わない方法も聞く一文を入れてあります。
この一文があると、Agentが「それはスプレッドシートの検索機能で足ります」と答えてくることもあるのです。AIの講座で、AIを使わない案が出てきたら正解だと言う。少し妙な構図ですが、MOAIで身につけてほしい「技術を選ぶ」とは、こういうことです。AIでできることと、AIでやるべきことは違います。
当日やってみて
参加者は本部町が3人、那覇が2人、オンラインが1人の、計6人でした。少人数だったこともあってか、気軽に発言しやすい雰囲気にはできたと思います。話したいこと、伝えたいことも、ある程度的確に伝えられた手応えがありました。
特に大きかったのは、オンラインの方からもらった感想です。
やりたいことが具体的に何か明確になって、頭がスッキリした
第1回のゴールは、改善テーマを1つ持ち帰ってもらうことでした。この一言は、その答え合わせになったと感じています。オンラインまで含めてうまく回ったのは、那覇会場を担当してくれた講師が、オンライン参加者への対応まで引き受けてくれたおかげです。
一方で、反省点もあります。話しながら講座の流れを追うことに意識が向いて、目の前の受講者の手が止まっていないかまで拾う余裕がありませんでした。また、カメラなどの設備がなく、本部町の会場からは那覇の様子が一切見えなかったのです。今回うまく回ったのは、仕組みが整っていたからではなく、那覇側の講師が対応してくれたからです。第2回までに、ここは手を打っておきたいと思います。
次は「共通言語」の回
第2回は10月10日、テーマは「AI時代のIT・データ基礎」です。
Agentに相談していると、GAS、API、DBといったアルファベットの言葉が次々に出てきます。分からない言葉が出るたびに止まっていては、相談が前に進みません。第2回では、それらを自分の言葉でざっくり説明できる程度にそろえます。
分からないことは「AIに聞けばいい」。それは正しいと私も思います。ただ、AIの答えが合っているかを判定するには、最低限の基礎知識が欠かせません。第2回は、まさにそこを押さえる回です。GASの書き方を覚える必要はありません。その代わり、「この問題ならGASで足りるかもしれない」と選択肢に挙げられるようにはなってほしいと思っています。
MOAIが育てたいのは、AIに詳しい人でもエンジニアでもありません。AI時代に、自分で仕事をアップデートできる人です。
第1回で一人ひとりが選んだ小さな業務が、8週間後にどう変わっているか。それを一緒に見届けたいと思っています。
もしあなたが受講者だったら、8週間で改善したい業務に何を選びますか?